「地球要塞」(海野十三)

原爆投下と東西冷戦を予言したかのような作品

「地球要塞」(海野十三)
(「あしたは戦争」)ちくま文庫

いよいよ
第三次世界大戦が始まる。
部下からその報告を受けた
「私」=黒馬博士は
日本への帰還を決意する。
しかし彼の乗る潜水艇に
謎の人物が侵入する。
海底の潜水艇に
どうやって潜入したのか?
そして侵入者の目的は
いったい…。

SFスペクタクルです。
「アンドロイド・オルガ姫」
「十万トンの巨大潜水艇・クロクロ島」
「成層圏飛行機SS103型」
「四次元振動」…。
登場するSF要素を書き出すと、
何とも高度な科学小説でありそうで、
何となくレトロな雰囲気も
漂っています。そうです。
本作品発表は1940年。
第2次世界大戦が勃発した年であり、
太平洋戦争の前年です。
一体、どんなSF?

舞台は1969年。
アメリカを中心とする汎米連邦と、
ヨーロッパ諸国の欧弗同盟が
20年間の均衡状態を破り、
第3次世界大戦を開始する兆候あり。
実はこれはフェイクで、
2大国家連合が裏で手を結び、
大東亜共栄圏に戦争を仕掛けるという
ただならぬ設定。
その隙を狙って
金星人が地球乗っ取りを企てる。
黒馬博士が金星人の力を借りて
汎米連邦・欧弗同盟間で
戦争を起こさせる。
次から次へのとんでもない展開。
しかし一見ハチャメチャに見える
筋書きですが、読み込んでいくと
冷や汗が出て来ます。

まず、
2大国家連合の20年に及ぶ対峙は、
東西冷戦そのものです。
戦後の世界情勢が
東西2大国間のバランスの上に
成立していたことを
予言していたかのようです。
現実は欧州ではなくソ連でしたが。

でもそれ以上に
衝撃的なものがあります。
博士が2大国家連合の陰謀を阻止し、
日本に戻ってくると…、
何と日本列島が消失しているのです。
「海面下○○メートルまでの陸地は、
 これを原子弾破壊機によりて、
 悉く削り取り、瀬戸内海をはじめ
 各湾、各水道、各海峡等を埋め、
 もって日本全土を、
 簡単なる弧状に改め、その外側を、
 堅牢なるベトンをもって蔽いたり」

つまり自ら「原子弾破砕機」という機械で
日本表土を削り取り、
国土を海底要塞に
改造してしまっていたのです。
「原子爆弾」によって
ヒロシマ・ナガサキを
焦土と化してしまった事実と
重なります。

太平洋戦争勃発以前に、
原爆投下と東西冷戦を
予言しているかのような本作品。
これこそサイエンス・フィクションです。
そして海野十三
恐るべき創作センスです。
また興味深い作家を
発見してしまいました。

※何でもこなす
 アンドロイド秘書・オルガ姫の設定も
 斬新です
 (「姫」が余計な感じがしますが)。
 数年前に話題になった映画
 「GHOST IN THE SHELL」を
 思い浮かべてしまいました。

(2020.2.25)

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